全国書店新聞
             

令和5年3月1日号

「ロス対策士」養成進める/万引防止出版対策本部6年目の展開/寄稿・阿部信行事務局長

日書連など6団体・1企業で構成する万引防止出版対策本部(出版万防、矢幡秀治本部長=日書連会長)の活動が6年目に入った。昨年10月14日の第6回総会で、矢幡本部長は「万引防止は経営課題。書店経営者の皆さんもしっかり理解し、取り組んでいただきたい」とあいさつし、ロス対策士の養成、インターネットへの盗品や不正な出品の抑止策構築、渋谷プロジェクトの展開、RFID普及に向けた働きかけなどを盛り込んだ活動計画を決定した。第6回総会の事業報告と事業計画をもとに、出版万防のこれまでの活動と今後の展開について、阿部信行事務局長に寄稿してもらった。
【事業報告】
5年目の活動期間は2021年10月1日から22年9月30日までとなる。
ここ数年で当本部の活動は書店の内的環境への働きかけと書店の外的環境への働きかけの2つの方向に収斂されてきた。
1、書店の内的環境への働きかけについては
1)まず、「ロス対策士資格の普及・促進」により自店の万引防止力を向上させ、自店防衛によるロスの根絶、削減を目指した。
①そのために全国万引犯罪防止機構(万防機構)・豊川奈帆理事の万引防止セミナー(10月)を皮切りに、万防機構LP委員会・近江元委員長と日販出版流通学院とのコラボによる無料セミナー(11月)を開催した。
②一方、トーハン週報を活用してロス対策士特集記事を掲載し、日書連をはじめ各書店組合へのセミナーを促進した。取次を通じた関係書店への促進を図り、日販出版流通学院・書店研究会、NICリテールズの全面協力による組織的促進やトーハンにおいては個別担当者の受験が見られた。
③7月には新文化1面に近江委員長の司会によるリブロプラス・玉井俊也社長、長崎書店・長﨑健一社長とのロス対策士養成の鼎談を掲載し、その重要性を周知した。
④22年4月20日に実施されたロス対策士検定試験受験対策セミナーの受講者57名中書店が24名(占有率42・1%)を占めたのをはじめ、同5月の第5回検定試験までの累計合格者424人中約7割が書店関係者となった。
2)渋谷プロジェクトのノウハウの水平展開に向け、
①2年間の蓄積を共有するため、21年11月に2年目の状況を情報開示した。同年4月に顔識別カメラソフトがバージョンアップされ、マスク顔での検知が可能となったことから、万引敢行者の再来店の実態が驚くべき数値となって現れた。その後マスク顔でも検知されることの情報発信に努め、現在までの常習者の来店減少につながっている。
②その他22年4月の個人情報保護法改正に対応し、個人情報保護委員会主催の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」において、本プロジェクトが個人情報保護法を順守し適法に進められていることを説明した。
2、書店の外的環境への働きかけについては
1)万防機構インターネット委員会で、まだ試行錯誤の段階ではあるが、インターネット上に盗品が出品されることに対する牽制を目的としたメッセージ発信が実施された。ICタグが実装されている他業界からスタートしたが、出版物のケースについて協議を開始した。
2)万引防止のためのRFID普及に向けての対応としては、PubteXの動向を注視してきた。ショールームを見学し、万引防止に関係する諸点について質問し確認した。
3、研究活動としては、仕掛学を実践している愛知県常滑署およびベイシアフードセンター常滑店を訪問し、実践例の成果を共有した。
【事業計画】
6年目の活動期間は22年10月1日から23年9月30日までとなる。今期は特にインターネット上への不正出品の抑止を重点的に対策、対応していく。
1、書店の外的環境への働きかけとして
1)まずは不正出品の抑止策の構築を目指す。インターネット上の不審、不正な出品に対する牽制を目的としたメッセージ発信を実施する。そのためには不正出品と思われる事例収集をスタートし、収集に賛同する書店を開拓する。特に特定大型書店の高額本の被害事実と、インターネット事業者への出品事実のマッチング作業を実施する。メッセージの発信は当該書店、インターネット事業者、当本部とで慎重に協議し実施する。
2)万引防止のためのRFID普及に向けた働きかけとしては、丸紅グループと講談社、小学館、集英社が設立したPubteX(パブテックス)の動向を引き続き注視し、更に連携を深めていく。
3)インターネット事業者ばかりでなく、リアルの新古書店への盗品持ち込みも継続していることから、新古書部会創設へ向けた協議を続けていく。
2、書店の内的環境への働きかけ
1)ロス対策士養成の呼びかけと受験の促進に向け、
①その前段として直接受験とは切り離したロス対策のリアルセミナー及びYouTube配信セミナーを開催する。既に10月26日に東京組合理事会、12月15日に日書連理事会で、ともに近江氏のセミナーを開催した。
②その後、東京組合は近江氏のセミナーの内容を有益と判断し、組合報「TOKYO書店人」に全文掲載。出版万防はそこからセミナー部分だけを抜き刷りして冊子を作成し、促進に活用している。この抜き刷りは希望する組合に無料配布する。2月16日の日書連定例理事会でも配布された。
③ロス対策士検定試験の合格者はフェイスブックにコミュニティを作り、セルフレジ対策など重要事項について情報交換している。より多くの合格者に参加してもらい、万引対策の実効性をより高めていくための場としたい。
④第7回以降の受験促進
2)渋谷プロジェクトのノウハウの水平展開
①現在導入を検討している書店並びに導入を促進している書店が数法人あり、継続して働きかけていく。
②同プロジェクトは同一地区での複数店舗による拠点型から一定の地域での沿線型への展開を模索する。
③いずれにしても顔認証カメラ活用のいかんに関わらず共同して取り組むことと、その成果を公表することが万引犯の警戒心を呼び起こし、被害根絶に向けて踏み出す一歩となる。
3、研究活動
以下を中心に、「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」への建議・提言を研究し、実施に結び付ける。
1)古物営業法の厳格適用やその他法律の適用により万引を抑止すること。
2)年間20万円を超える所得から発生する納税義務をインターネット事業者から啓発し、マークを意識させ、不正出品者へ告知し、万引を抑止すること。
3)書店を装って多分野にわたる出版物を出品する個人に対し、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益保護に関する法律」を活用し、出品者を個人と業者に峻別することを端緒に不正出品者をあぶりだし万引を抑止すること。
4)大量の出版物を出品していたり、ありえない出品内容のものを出品しているアカウントを注視し、状況を見極めた上で啓発メールに繋げること。
5)万引された複数の商品を同時に検索できる機能を持つことで、当該出品者を特定し啓発メールを発出して不正出品を抑止するシステムを構築すること。
〔ロス対策士検定試験とは〕
万引など小売店舗におけるロス防止に取り組む、全国万引犯罪防止機構(万防機構)が設立した検定試験。欧米ではすでに広く認知され、研究活動も進んでいるロス・プリベンション(損害予防)教育を普及させるとともに、ロス対策の知識と技術の向上を図り、実際の現場で活用することを目的としている。
万防機構は、この検定試験の公式テキスト「ロス対策テキスト2021」(定価本体2800円)を発行している。テキストと検定試験で得た学びの成果を書店店頭の実際の現場で活用し、万引防止などロス対策に役立てていただきたい。
〔第7回ロス対策士検定試験実施要項〕
◇受験日時 2023年5月16日(火)正午~翌17日 (水)正午(ログインは11時まで)
◇受験方法 ウェブテスト(ネットワーク環境で受験者自身のパソコン、タブレット、スマートフォンで受験可能。事前に受験者にアクセス方法を知らせる)。受験時間60分間(試験開始時刻は上記日時の中で任意)。問題は80問(知識70問・70点、計算問題10問・30点)
◇受験手数料
万防機構個人会員および企業会員
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