全国書店新聞
             

平成20年8月1日号

機構に再検討求む

日書連7月理事会は環境改善政策審議会の報告で、文字・活字文化推進機構が「図書館スキルアップ講座」として、図書館流通センター(TRC)との共催により講習会を企画していることについて、「(図書館納入で地元書店と競合するTRCと組むことは)書店の感情を逆なでする。機構側に見直しを求めたい」とし、肥田理事長に話し合いを申し入れる。

大橋会長らで取次訪問/返品入帳、請求問題打開へ

日書連は7月24日の理事会で返品入帳、請求同日処理問題の経過を報告。6月までに求めていた取次各社からの回答を発表し、今後の対応を協議した。この結果、事態を打開するため8月中にも大橋会長、柴﨑副会長らで取次各社を訪問し、直接、取次首脳に理解を求めていくことを決めた。
取次各社からの回答は別掲の通り、日教販のみ文書回答。他の7社は口頭または電話で回答してきた。取引改善委員会柴﨑委員長は「取次からの回答は、返品入帳を遅らせるよう努力するというものだったが、日書連の申し入れの趣旨は、請求も返品入帳に合わせてほしいというもの。直接説明しないと理解してもらえないのではないか」と指摘した。さらに、大橋会長も「取次各社の回答は日書連からの要請の趣旨を取り違えた内容だった。正副会長で取次各社の社長、担当取締役を訪問し、直接説明したい」と述べ、8月中に取次各社トップを訪問する方針を説明した。
出版社の有事問題については、「出版社の販売代行会社がFAXで受注する際、フリー入帳をうたっているが、書店と出版社に直接取引はない。取次、書店にフリー入帳はなく、販売代行会社がフリー入帳と書けば不当表示になりかねない。取次の返品了解書がなければ、安心して返品できない」とし、「営業活動を活発化させるためにも、フリー入帳の仕組みと定義を取次と話し合いたい」と述べた。
柴﨑委員長の報告に対し、理事会では「倒産した出版社の常備入帳分の金額がつかめないか」「国際地学協会は倒産からそろそろ2年が経過する。その後の経過を報告してほしい」などの声が上がった。
また、書店が倒産した場合、「外商だけになったら、もう一度約定書を書け、信任金を入れろと言われた」「店舗から引き上げた商品の明細書を見せない」などの事例を示し、問題の事例があれば、すぐ日書連に報告するよう求めた。
〔取次各社の回答要旨〕
日教販回答
6月20日付「送品・返品同日精算のお願い」についてご回答申し上げます。
返品入帳処理の改善につきましては平成18年11月29日付で当時の弊社の状況をお伝えしていますが、当時に比べて自動読み取りによるデータでの処理など抜本的な改善は行えていないのが実情です。現在、返品処理につきましては弊社として当時から懸案としてきました取次5社で運営する出版共同流通㈱への参画をスケジュール化し、社内で事前に解決すべき問題に着手しており、入帳処理改善の早期実現に向け鋭意努力しているところです。
昨今の書店様の置かれている状況につきましては充分認識したうえでご要請にお応えして参る所存です。なにとぞご理解を賜りますようお願い申し上げます。文書以外の回答
トーハン=桶川で返品処理が早くなり、入帳処理日数を短縮できた。今回の要請は出版社の納品・請求問題もあり、出版社の理解も必要。お互い歩み寄りしないと難しい。現在社をあげて中小書店支援に力を入れている。
日販=平成17年に10営業日前までだった返品入帳を5営業日前まで改善してきた。現在は3営業日前を目指して努力している。返品入帳データの処理は締め後約1・5日かかっている。
大阪屋=1日前着荷分まで入帳している。決算期でも変えていない。今年3月も月末ぎりぎりまで入帳処理した。送・返品同日処理の趣旨はわかるが、今の段階では無理だと思う。
栗田=月末30日とすると、29日着まで返品を処理し、翌30日午前中にデータ取り込みしている。月初5日ぐらいまでに請求書を届けている。
中央社=システム的、物理的、費用的に簡単にはできない。見直しはこれからも進めていく。
太洋社=内容はわかったが、書店の状況がよくならないといけない。環境改善の一つの取り組みだとは思う。
協和=検討しているが、転廃業が多く、入金が悪化している。返品は東ロジを利用しているが、タイムラグが発生する。書籍も早く入帳するよう努力している。版元への清算もあり、なかなか厳しい。

有害図書不扱い3つ星/書店格付けに営業妨害の声/秋田

秋田県PTA連合会と同県高校PTA連合会が、青少年有害図書を扱わない書店、有害図書の区分陳列を徹底している書店を「スギッチ花まる本屋さん」として星印で格付けする運動を始めようとして問題になっていることが24日の日書連理事会で秋田組合から報告になった。
秋田組合和泉理事長の報告によると、PTA連合会が進めようとしているこの運動は、有害図書から青少年を守るためとして、区分陳列の徹底、不扱いに賛同する書店、コンビニなどを
審査し「スギッチ花まる本屋さん」として3つ星、1つ星で認定するもの。認定店舗にはステッカーを表示し、PTA会報、広報紙、ホームページで広く紹介するという。
和泉理事長は「6月30日の地元紙に大きく報道されたあとになって、7月2日に秋田県生涯学習課から説明があった。秋田県は昨年県条例を改正したばかりで、書店組合は不健全図書類の区分陳列に協力してきた。書店に相談のないまま今度の話が進められたことは、書店を軽視するもの。格付けは営業妨害にもなりかねない。8日に秋田組合緊急理事会を開き、書店から認定申請はしないことに意思統一した」と、これまでの経緯を報告した。
理事会では「地域によっては『少年ジャンプ』でも有害図書に指定されかねない」「(不健全図書を販売すると)青少年を守らない書店という烙印を押される。書店は経営ができなくなる」「秋田から全国に運動が広がらないか」などの発言が相次いだ。
大橋会長は「魔女狩りの雰囲気があり、見過ごせない問題」と述べ、当面、事態の推移を注意深く見守っていくことになった。

積極的な販売支援決議/小学館『ホームメディカ』/7月理事会

〔流通改善〕
ICタグを利用して責任販売制と委託制の複数取引条件を選択できる小学館『ホームメディカ新版・家庭医学大事典』について、藤原委員長が小学館と意見交換を行ったことを報告。責任販売制では書店マージン35%、委託制では通常正味となること、責任販売制の返品は歩安入帳となることなどを説明した。当初、延勘だった委託扱いの場合の請求は、日書連の意見を受けて4カ月長期委託になった。
さらに藤原委員長は「日書連が考えてきた新販売システムは店売商品で、今回は外販商品という違いはあるが、今後、ICタグを使った方式の拡大を支援するため、積極的に販売を支援したい」と提案。理事会として小学館『ホームメディカ』の販売を支援する決議を行った。
発売日問題では雑誌発売日励行本部委員会大久保徹也委員長あてに「雑誌発売日諸問題解決に向けた対応のお願い」として8項目を要望すること、平成21年年始発売日は1月5日(月)全国一斉発売案が固まったことが報告された。
〔指導教育〕
8月20日に予定している書店経営研修会について、鈴木委員長は各県組合2名程度の枠で、7月23日までに53名が受講を登録したと報告した。2名を超える申し込みの組合が若干あり、これについては、県組合、個人負担の参加とすることを了承した。
同日の理事会には、全国中央会今野振興部長が訪れ、活路開拓、ネットワークシステム開発など中央会が行う補助事業の概要について説明した。
〔情報化推進〕
東京国際ブックフェアの初日、7月10日に東京ビッグサイトで全国情報化推進委員長会議が行われ、日本図書館協会常世田次長、出版倉庫流通協議会大竹代表幹事の基調報告、近畿情報化委員会、大分組合から実践例の報告があったと井門委員長が報告した。
また、日書連図書館サポート委員会が図書館納入のノウハウをまとめたマニュアル「図書館対応の『いろは』」(A4判54頁)は各県に1部ずつ配布する。図書館納入に関して、山形組合が8月19日から22日にかけて県内4会場で勉強会を開く。ICタグの説明会は8月1日に大阪、7日に福岡で開催する。
〔再販研究〕
7月8日に出版再販研究委員会が開かれ、再販違反事例の研究を継続的に行っていくこと、8月のお盆明けにも会合を持つことになったと岡嶋委員長が報告を行った。
〔増売〕
児童図書出版協会との共催による「第4土曜日は、子どもの本の日」キャンペーンを今秋10月、北海道地区から再開することが報告された。春秋の年2回、ブロック単位で開催し、1ブロックは最大30書店、3カ月間連続して店頭で読み聞かせを実施する。
「心にのこる子どもの本新刊セール」2008年秋は、1億2千万円の売り上げを目標に絵本、読み物、遊びと学習、読み聞かせにふさわしい絵本の4セットを受注する(選定セット書名7面掲載)。
「雑誌愛読月間」の特別企画として7月1日から始まっている「年間定期購読キャンペーン」は、対象誌103誌の年間購読を店頭で申し込むと1カ月分の購読料がサービスになる企画。舩坂委員長は8月20日まで、ポスターを掲示して読者にPRしてほしいと訴えた。春の書店くじ特賞当選者は別掲の12名を「タイ5日間の旅」にペアで招待する。出発は10月8日。
また、春の書店くじWチャンス賞には2268通の応募があり、7月理事会で当選者100名を選んだ。
〔出版販売年末懇親会〕
12月17日夕にパレスホテルで開催する「出版販売年末懇親会」は6百名から8百名規模を集め、10月半ばにも出版社など業界関係者に案内状を送る方針を井門委員長が説明した。
〔書店経営健全化〕
各都道府県組合の6月期の組合員の増減は加入5店に対し、脱退が38店で、差し引き33店のマイナス。6月末現在の組合員数は5784店になった。
中山委員長はカラーパンフレット「書店商業組合加入のご案内」を5千部作成し、各県に配布したので加入に役立ててほしいとし、これに各県組合独自の事業活動、メリットなどを加えてPRするよう求めた。
鶴谷理事、井上理事からは、改めて取次各社に取引口座開設の際、都道府県組合への加入を勧めるよう要請すべきでないかと提起があり、中山委員長は提言を実現すべく取り組むことを明らかにした。
〔消費税問題〕
総選挙が近づく中で消費税率上げの議論はお蔵入りのムードが強い反面、18日に開かれた全国知事会議では自治体の財源不足を解消するため、地方消費税の充実を求める提言を採択したことが報告された。
〔広報〕
面屋委員長は、10月16日午後1時から書店会館で全国広報委員会議を開催すること、書店新聞では各県組合で活躍する女性理事の紹介を継続して取り上げていくことを紹介した。
〔移動理事会〕
今年の移動理事会は秋田組合の設営により10月23日に開催するが、秋田組合和泉理事長から田沢湖畔・プラザホテル山麓荘を会場とすることが報告された。
〔共同購買〕
日書連のオリジナル商品「ポケッター2009年版」「店名刷り込みシール」の斡旋は、8月に入り各書店に申込書を送付する。締切は8月25日。
〔理事退任〕
日書連7月理事会は伊沢崇理事(根室市・伊沢書店)から申し出のあった理事辞任届を了承した。
〔日書連共済会〕
日書連共済会の正味資産は6月末現在5億3382万円であり、引き続きリスクの少ない資産運用を検討していると木野村委員長が説明した。
日書連共済会の監事は井上俊夫(神奈川)、山根金造(兵庫)両氏が退任し、後任に筒井正博(神奈川)、井上喜之(兵庫)の両氏が就任することを了承した。

2008春の書店くじ特賞当選者

千歳市・荒尾裕香(文教堂千歳店)、市川市・池本勉(福家書店銀座店)、行田市・松岡渉(ヤングポート)、横浜市・関孝一(ユニー金沢文庫店)足立区・康原済子、江東区・山下美恵子(福家書店銀座店)、静岡市・上田美紀、富山市・大平直毅、同・京田陽
太郎、北葛城郡・濱田加代子、京都市・辻浩和、田川市・近藤洋子

6月期は平均96・1%/文庫のみ前年5・3%上回る/日販調べ

日販経営相談センター調べの6月期書店分類別売上調査がまとまった。6月期は平均96・1%で、5月の97・3%を1・2ポイント下回った。
客単価は100・8%で前年を0・8ポイント上回っており、8カ月連続して前年比プラス。売上高の減少は客数の減少によると考えられる。
ジャンル別では文庫のみ5・3ポイントの増加。映画化された『西の魔女が死んだ』(新潮社)や『蟹工船』(同)が好調な売れ行きを続けている。
新書は姜尚中『悩む力』(集英社)や、中村俊輔『察知力』(幻冬舎)が好調だが、昨年同月の『女性の
品格』や『食い逃げされてもバイトは雇うな』には及ばない。規模別で見ると、50坪以下、51~100坪、101~150坪が前年の数字をキープしているのに対し、151~200坪、201坪以上は95~96%と落ち込みが目立つ。

首位紀伊國屋、経常赤字に/日本の専門店ランキング/日経流通新聞調べ

日経流通新聞(日経MJ)は7月9日付で第36回日本の専門店調査(2007年度)を発表した。これによると、07年度の専門店416社の総売上高伸び率は前年比6・8%と前回調査の4・5%を上回った半面、営業利益率は1・0%減と10年ぶりの減益となった。人件費上昇やガソリン高などに伴う消費者の節約、価格競争の激化などで収益性が悪化したものと同紙では分析している。
23業種のうち増収増益は9業種と、前回調査より3業種減った。今回調査から新たに生活雑貨を追加しており、実質では4業種の減少になる。大手を軸に積極出店が続いた家電製品は10%超の増収増益だったが、呉服と楽器・CDの2業種は減収で経常赤字。原料価格の上昇や競争激化による値引きなどが響き、経常減益も12業種と前回調査より4業種増えた。
書店部門の売上高ランキングを見ると、紀伊國屋書店が0・6%減の1173億円で6年連続のトップ。2位は丸善で3・5%増の1016億円、3位は有隣堂で1・2%減の534億円だった。上位5社のうち紀伊國屋書店、有隣堂、文教堂グループホールディングスの3社が減収となった。売上高伸び率ではヴィレッジヴァンガードが24・4%増と高い伸びを示した。
また、経常損益は紀伊國屋書店が赤字だったほか、丸善や有隣堂など有力企業も軒並み減益だった。一方、複合店が強みのヴィレッジヴァンガードは2ケタ増益を確保した。
総売上高経常利益率はヴィレッジヴァンガードが11・1%、1人当たり総売上高は戸田書店が6894万円、3・3㎡当たり直営店舗売上高は京王書籍販売が303万円、直営+FC新設店舗数はヴィレッジヴァンガードが43店で、それぞれトップだった。
書店を含む「書籍・文具」業種全体の増収率は2・6%と前回調査を0・4ポイント下回った。書籍、雑誌とも販売低迷が続き、中小書店を中心に既存店が減収となるケースが目立つ。CDやDVDレンタルとの複合店や売り場の大型化で集客力の向上を目指す動きが一段と広がっている、と同紙では指摘している。

文春・名女川取締役と懇談/8月4日、経営活性化委が/大阪

大阪府書店商業組合は7月12日午後2時から組合会議室で定例理事会を開いた。
理事会に先立ち、大阪地方裁判所・裁判員制度担当の裁判所書記官、小山和彦、野木真智両氏から、裁判員制度の円滑な運営に活用したいのでアンケート調査に協力をお願いしたいと要請があった。また、裁判員に選ばれた場合、3日間程度拘束されること、日当は1万円以下であることなどの説明があった。
理事会の主な審議事項は以下の通り。
〔経営活性化委員会〕
8月4日午後2時から組合会議室で文藝春秋・名女川勝彦取締役との懇談会を開催する。経営活性化委員以外も参加できる。
〔読書推進委員会〕
6月25日、大阪朝日新聞会議室で大阪読書推進会の総会を開催した。
7月10日、読書推進会実行委員会を開催した。本の帯創作コンクール(帯コン)資料を書店が学校へ持参した効果もあり、学校の採用は増えたが、各書店に配布したセットの売れ行きが芳しくない。お客様に一声かけるようにしてほしい。
〔学校図書館・IT化関連委員会〕
7月10日、日書連情報化委員会に出席した。国の学校図書館整備費用の交付金の活用が大事である。役所に「本を買ってください」と、もっとアピールすべきという話が出た。
〔中央図書館等納入委員会〕
大阪市立中央図書館の図書納入の入札について、12月頃ネットで告知される。
〔その他〕
萩原浩司理事より「大阪トーハン会青年部結成20周年記念企画として『寄付金付ブックカバー』『プラスティック代替雑誌袋』を作成した。大阪組合でも採用してほしい」と要望があった。事業委員会で、その取り扱いを検討することになった。
(中島俊彦広報委員)

県立高図書館の民間委託/長野組合が反対の要望書提出

長野県書店商業組合(赤羽好三理事長)は7月11日、教育委員会を訪れ、県が計画している県立高校図書館の民間業務委託の動きに対し、「学校図書館の多様性や役割が守られなくなる。地元書店が書籍納入から締め出されると危惧しており、死活問題になりかねないと県下の全書店が動向を注視している」などとする要望書(別掲)を、県教育委員会の山口利幸教育長に手渡した。山口教育長は「学校図書館の活動は重要。要望書の趣旨を検討したい」と述べた。
長野県立高等学校司書民営委託に伴う要望書(概要)
「長野県立高校司書民営委託」につきましては、長野県下の全書店がその動向を注視しているところです。成り行きによっては死活問題にもなりかねないため、県下の書店が加盟する長野県書店商業組合として下記のようなお願いをさせていただくものです。
■地元書店が書籍納入から締め出される
もしも大手図書装備会社であるTRCや学校図書販売に強い影響力をもつ(社)信濃教育会及び㈱しんきょうネットなどの書籍販売を営業目的としている大手会社が司書の民間委託先になった場合は地元の書店が締め出されると大変危惧しております。
■学校図書館の多様性や役割が守られなくなる
学校図書館は公共図書館と異なる役割がありますが、学校のニーズに合わせた選書や活動をするためには学校の事情を把握し、多様で自由な選書・司書活動が必須と考えられます。
司書を民間委託される会社が書籍販売をしている場合は、当然発注先や選書は自分の会社のことを聞かざるを得ず、発注先や選書が偏ることはむしろ自然なことです。
司書は生徒などの個人情報を知る立場になりますが、民間委託した場合には司書の立場や待遇も変わると考えられ、その点不安がないわけではありません。
■地元書店締め出しになるような行政改革には反対致します
長野県書店商業組合と致しましても長野県の財政状況が逼迫していることは承知致しておりますし、行政改革の必要性を余儀なくされていることは理解をしているところであります。
しかし、その結果として地元の書店から書籍購入ができなくなってしまうような事態になれば、各地元書店の死活問題になり長野県に籍を置く多くの書店が困窮することになることは間違いありません。
地域の学校の一番近くにいる私ども長野県内各地元書店は書籍販売を通して青少年育成や地域の学校の一助になりますように微力では有りますがなんとか関わって参りたく、日々活動をしております。
何卒、行政改革の結果として長野県内各地区の地元書店が高校の図書館から締め出されてしまうようなことにならないように心からお願い申し上げます。
(高嶋雄一広報委員)

読みきかせらいぶらりい/JPIC読書アドバイザー・村上佳子

◇2歳から/『いろいろごはん』/山岡ひかる=絵・文/くもん出版840円/2007・6
みんなの大好きなごはんがリズミカルな言葉にのっていろいろな料理に変身。ふんわりしたごはんひとつぶまで全て貼り絵。紙だけで表したとは思えない手間をかけた絵本。ぎゅうぎゅう、のせのせまきまきと繰り返すことばのリズムが楽しく食も進み、ごはんとことばをいただきまーす。
◇4歳から/『ててちゃん』/土橋悦子=著/織茂恭子=絵/福音館書店945円/2008・4
わらべ唄をうたいながら、日本各地に伝わる「顔遊び」を絵本にしたもの。巻末に「遊び方」があり、ててちゃんがおやぶをかきわけて…。頭、鼻、眉、へそを撫でながらスキンシップができ、読んだ後は絵本から遊び、手遊びと展開できます。質感の違う貼り絵が想像力をかきたてます。
◇小学校低学年向き/『たったさんびきだけのいけ』/宇治勲=絵・文/PHP研究所1260円/2007・4
おたまじゃくしはカエルになる成長の中で、亀や魚を羨み仲間外れにします。魚が死にそうになってとった行動に、ざわついていた子ども達も息をのみ聴き入ります。「ほった穴から別な魚が入ってくればいいんだよ」。仲間、いじめ、子どもたちが次への解決を考えてくれる筋の太い作品。

どうする出版産業のビジネスモデル/「本の学校出版産業シンポジウム2008in東京」から

「本の学校・出版産業シンポジウム2008in東京」が東京国際ブックフェア会期中の7月12日、東京ビッグサイトで開催され、第1部で「どうする!出版産業のビジネスモデル―現行システムの根本を問い直し、未来への展望を探る」と題した特別講演が行なわれた。文化通信社・星野渉氏をコーディネーターに、有隣堂社長・松信裕氏、筑摩書房社長・菊池明郎氏、インフォバーン会長・小林弘人氏がパネリストとして出席。書店、出版社の経営者、新しいメディアのビジネスモデルを追及するベンチャー企業経営者という三氏が、それぞれの立場から出版メディアのあり方や委託制度の問題点などについて発言した。
〔書店が利益上げる仕組みを〕
星野「どうする出版産業のビジネスモデル」という大きなテーマを付けたが、最近の状況を見て、一つひとつの仕事を少し手直しするというレベルでは、出版の枠組みはもたないのではないかと感じることが多い。今日は、まず我々の目の前で起こっている問題を解決するためにどんな発想が必要なのかということを議論したい。もう一つは枠を広げて、デジタル化という出版の基本的なインフラを変える大きな流れがある中で、出版というビジネスモデルが今後どうなるのか、どうすればいいのかという話をしたい。
今日は書店、出版社、そしてデジタルメディアを中心に仕事をされている3人の方に参加いただいた。同じ問題についても、おそらく問題意識がそれぞれ違っていると思う。始めに問題提起をお願いする。
松信世の流れが電子化に動いている中で、本が売れず、雑誌が落ち込んでいる。現状をどういう立場で考えるかだが、とりあえず本屋の立場でいうと、あまりに本屋が儲からない。売り手が活性化し、明日への意欲を持たなければ、いくらいい本を作っても売れない。小学館のホームメディカの試みは大歓迎だ。早くああいう動きが加速していってほしい。本屋が儲かるようにすることが、出版業界が結果的に栄える大きな根幹だと思う。
菊池出版物の売上は1996年がピークで、昨年までの11年で総額5711億円、21・5%落ち込んでいる。構造不況業種的な様相を示しているといわざるを得ない。とりわけ雑誌の落ち込みが大きい。まだ厳しい状況が続くのではないかと感じている。どうやって打開するかだが、やり方次第では出版業界も下げ止まって、それぞれが何とか生き延びるだろうと思っている。先ほど松信さんがおっしゃったことは私も同感の部分があり、厳しい意見を戦わせながら、業界全体として読者の方を向いて立て直していくところに解決策があるのではないか。
日本の出版業界は再販と委託制度を大きな柱に発展してきたが、今起こっている問題は、委託制度によるものではないか。書店は売れなければ返す。出版社は資金繰りが苦しくなると、取次にお金がもらえるので大量に送ってしまう。このいたちごっこで限界を越えかかっている。ここをどうしたら改善できるのかに焦点をあわせて考えていくべきだと思う。
小林十数年前に本の学校に呼ばれて講演したことがある。講演のテーマは「デジタルメディアとリアルの紙メディアはこれからどうなるか」だった。しかしそれ以降も話される問題は変わってなくて、プラクティカルな話には全然招かれたことがない。あの頃の問題意識で話したことがそのまま通用してしまうのはどうなのかと思う。
もう一つは、新聞業界の集まりで招かれたときにもよく話しているのだが、メディア論とビジネスの問題がごっちゃに語られることが多い。ジャーナリズムやメディアとしての理想というより、メディアとしての現実を直視したうえで、ビジネスをどう再構築していくのかという話だと思う。
今は誰でもネット上で出版できる時勢になっていて、送り手イコール作り手だったりするので、メディアの価値はどんどん下がっている。その時プロのメディア人はどうすべきなのか、高付加価値をどうやってつけていくのかを考えなければいけない。人からお金を取るのは並大抵の努力では難しい。また、今の日本の出版社は、流通制度に依拠しすぎている。お客様オリエンテッド、つまりお客様が何を求めていて、どう変化しているかに対応していく必要がある。
私は本は今後も大丈夫だと思っているが、雑誌と新聞は結構厳しいと思う。これから大手は厳しくなってくるのではないか。ハイボリュームを狙うために高コストの組織作りをしているのに、入ってくるお金がどんどん低くなっている。逆にすごくニッチなところを狙った小さな組織がハイレベニュー(高収益)になってきている。
星野まず出版業界が現実に抱えている問題についてうかがい、後半は出版のあり方まで話を拡げていきたい。小林さんから指摘があったように、雑誌が高収益で出版業界を支えてきたが、その収益性が低くなってきている。単に雑誌が売れないというのではなく、社会全体の情報の流れ、需要の変化があり、構造的な問題が起こっている。
産業としてみた場合、松信さんの言ったように書籍できちんと利益を上げることが非常に大事なのではないか。それなりに需要のある書籍で食えなければ非常に厳しくなってしまうという問題意識があると思う。よくマスコミなどで「本は読まれなくなってもうだめだ」という見方がされているが、小林さんはどう思うか。
小林メディアを受け取る媒体が紙から電子媒体になり、情報の回転率、フローがどんどん高くなっている。書籍というのはストックで、今までフローされてたものが時間がたってストックとして価値が出てくる。また、一個ずつの情報は点だが、点を線にしてくれるのが書籍だ。物の見方や思想、人格形成に対して非常にインパクトを与えるもので、僕はマインドウェアと読んでいるのだが、どの時代でも、形は変わるかもしれないが安泰だと思っている。
雑誌が扱うフローの高い情報は、電子メディアと激しくバッティングしている。しかもネットはタダで読める。もう一つ、雑誌の本質は、写真誌は別として、コミュニティだと思っているが、ネットは他のユーザーや詳しい情報とダイレクトにつながる。雑誌はネットとコミュニティとして激しく競合しており、コミュニティを活かせる基地として、ウェブやモバイルに進化すべきだと思う。
〔タグ利用した返品減に期待〕
星野書籍がこれから右肩上がりに伸びていくというのは考えにくい。パイが増えることがなければ急激に伸びることはない。メディアとしては安定しているんじゃないかということだが、そこで儲かっていない現実がある。菊池さんに打開策はどの辺りにあるのかをうかがいたい。
菊池コンテンツの面とと流通の面と、両方ある。書籍でも辞典類のようにデジタル化の影響を受けているものはある。だが一般書籍は、いちいち起動する必要もなく、書き込みもできたりするので、まだまだ便利なツールだと思う。わたしどもは、2年程前に梅田望夫さんの『ウェブ進化論』を出して非常に売れた。梅田さんはシリコンバレーで最先端を突っ走っている方だが、紙媒体の良さがあり、書籍の形で表現したかったとおっしゃっている。我々に対しての励ましの言葉かもしれないが、まだまだ紙媒体はやれると感じている。
もう一つは、書籍は著者と出版社の共同作業であり、著者がコンテンツを作ってそれに対し編集者の目が入って初めてクオリティが保証される。これが大事なことで、その作業をやっている人たちが食べていく保証がされないならば、どうやってクオリティをキープしながら作品を送り出していけるのかという問題があると思う。
何十年先のことは分からないが、少なくとも書籍はきちっとした作品を読者に提供していく限り、コンテンツの面や紙媒体の特性から言って、まだやれるという感触を持っている。流通の面についてはまた後で話したい。
星野紙なのかデジタルなのかではなくて、それぞれの機能にあったものをユーザーが使うだろうという、当たり前の話なのだと思う。先ほど出版社としてのクオリティを高めていくという話が出た。小林さんの、プロのメディア人としてどう高付加価値をつけていくかという話とつながるのだろうが、これはまた後の議論にさせてほしい。
松信さんが、書店が儲かるように何とかしてほしいという話をされていたが、書店にとって何が問題なのか。日書連の書店経営実態調査を見ても、ベストセラーがこないとか、粗利が低いとか、再販を守ってほしいなど、日書連に対するいろいろな要望があった。松信さんは、書店が儲からないことは、例えば仕組み自体に問題があるとお考えなのか、もう少し説明をお願いする。
松信仕組みの問題もあると思う。新刊のパターン配本は、需要と乖離している本が送られてくるわけで、返品率が下がるわけがない。我々にそれをチョイスする能力もないという部分も正直あると思う。高齢化と少子化で需要も下がっている。そういう中で利幅が少ないのにじゃんじゃん本が送られて大量返品して、返品率を下げるしか利益はないよというのが今の常識的な見方だろうと思う。ここを解決していくことが大事ではないか。
出版社を責めるわけではないが、どうしようもない本がたくさん出て、それが全部返品に回っている。それを出さざるを得ないという出版社の懐具合も分からないわけではないが、そんなことをやっていたらシステムが崩壊するのは目に見えている。また、言いにくいことだが、再販に守られているという心地よさがあるけれども、本屋の工夫を妨げる大きな理由にもなっているように思う。
もう一つ付け加えさせていただくと、私の父は17年間日書連の会長をやった。あの時は、もっとマージンをよこせとか、運賃を負担しろと業界の中で闘ってきた。ところがあるとき公取が再販をなくすぞということになって、本来闘うべき三者が合体してしまった。これが結構後を引いているのではないか。出版社や取次が敵だというのではないが、その辺りが歪められた感じがする。
菊池流通面で販売システムを何とかしたいという思いがある。ドイツの出版業界を見てなるほどと思ったのは、ドイツは再販制度があるが、日本と違って買切が原則で、事故以外ではほとんど返品が生じない。送りつけはなくて注文されたものしか送本しないが、その代わり書店は仕入れ能力が求められる。ドイツには昔から書店学校があってそこでプロの書店人を養成している。そういう教育を受けた書店人が全国で80%強を占めるという。取次のマージンは日本とそれほど変わらないが、返品ロスがないのと、定価が高いのでマージン額や利益率はすごく大きい。
ドイツで大手取次のリブリの最新物流基地を見てきたが、前日夕方6時までに発注があったものは、12時間以内にドイツ全土の書店に届けられる。地形や道路網も違うので日本と同一には論じられないが、そういう物流体制を取れていれば、読者との信頼も生まれるし、定価も高いから書店も儲かる。
小学館が提案しているホームメディカは、委託と責任販売でマージンが違う。RFタグを装着することで、この本がどこの書店から返ってきて、どちらの条件なのかということが一瞬で読み取れる。いま限界にぶちあたっている委託とかマージンの問題を解決する武器になるのではないか。出版社、取次、書店が協力しながら研究して、できるところを改善していく。返品率が40%から30%に下がったら出版社はものすごく効率が上がる。一筋の光が見えた気がする。
私がうかがったところによると、導入の最初の段階なので、小学館が各取次に読み取り機を提供するという。それから平均的な出版社がそういう先行投資に果たして耐えられるのか、結果がきちっと出るのか、小学館がデータを公開してくださるということなので、我々としても結果を学んだ上で今後に備えたい。
星野今のお二人の話は、基本的に委託がテーマになっていたと思う。委託というのは大きなポイントで、書籍で儲けられるかというと、値段を上げるか原価を下げるか、返品を減らすしかない。こんな時代なので、出版社が値段を倍にしようなどというのはとても無理だろう。原価についても、これ以上原材料の値段が上がって原価が下がるなどということはありえない。返品というところ以外には、デジタルにして違うところで儲けようということ以外にないのかなという感じがする。
小林本屋はたくさんあるが、どこへ行っても品揃えが一緒。一ユーザーとしては、利便性や、居心地がいいとか、店員の知識や水準の高さが高付加価値のうちの一つに含まれている。委託制度も絡んでいると思うが、今後はもっとユーザー視点で、議論が発展してほしいと思う。
星野お客に合わないものを送っているから結果として返品が来る。その意味では、委託システムというのはユーザー志向ではないという見方ができる気がする。ただ、委託によって日本の出版産業は大きくなってきた。営業力のない小さな出版社も、取次に本を持っていくと翌々日には何部か配本してもらえる。こんな便利な仕組みがなくなったとして、出版社から見た場合、送品量が減っていくという現実が起こってくると思うが、菊池さんはどうお考えだろうか。
菊池私どもの新書の初刷り部数は全国の書店の軒数分はないので、コンピュータで書店の販売実績を単品ごとに割り出し、過去3年分を見て、どこの書店には初回何部送るということを決めて、取次にお願いしている。これで一時期確実に返品率が下がった時期があった。それが今は返品率が上がってきている。
書店は切羽詰っているから、少しでもこれはいかんなと思ったら戻してくる。そこをどうするかということで、タグを利用するということも一つある。だが、現状においても、取次と出版社の間におけるその辺のデータをもう少し解析していければと思う。
大変な作業だが、出版社も取次も、どこの書店にどういう本をどれだけお願いしたらいいかということをまだまだ詰めていく必要はあるだろう。これは小さな改善だが、効果も出ることだ。片方ではそういう地道な作業も必要だと思う。
星野今送品の話をしておられたが、書店側から見ると、本来は小売はお客様が欲しいものを仕入れて売る。書店がきちんと客の側に立ち、配本でない仕組みになった場合、本を選ばなければならないことになる。出版社の人で、「書店に選書能力はない」という乱暴なことをおっしゃる方もいるが、書店側としてそこに対するリスクや恐れがあるのか。
松信(恐れは)あるし、偉そうなことは言えないと思っている。店の従業員を松竹梅で分けたら、松の下くらい力はあると信じている。ただ、それで十分ではない。しかも、鶏が先か卵が先かの話ではないが、儲からないからどんどん社員を減らしてアルバイトにしている。悪口を言われるけれども、そうせざるを得ない。
10年前と比較して、ウチはトータルで見て書籍も雑誌も減っていない。店舗を出したり引っ込めたりしているので、ときどきの売場面積により増減はあるが。POSデータの利用の仕方といったもので、それだけ能力があったのだろうと思っている。お前のところの店員がどこまで本の良い悪いを判断できるんだ、売れる売れないを判断できるんだと言われるとなんともいえないが、自慢たらしく言えば、下の下ではないだろうと思っていて、経営者としてはそこに光を見出したいなという感じだ。ただ、見本もなくて書名と著者だけで選べといわれても困る。それなりに前段の仕掛けがあればと考える。それから、初回配本より2回目の注文の精度だと思う。
〔編集力で高付加価値つける〕
星野今の流通や販売を中心にお話しをうかがってきたが、少し話を広げていきたい。これからビジネスとしてどうなっていくのか。小林さんは、プロのメディア人としては高付加価値をつけていかなければいけない、それは大変な努力が必要だと話していた。菊池さんは、クオリティコントロール機能があるから出版社が必要なのだということだった。出版社がこれからも高い価値を提供し続けていけるのか、他の人たちがもっと価値のあるものを作ってしまうこともあるのではないかということについて、あらためてお二人に意見をうかがいたい。
小林2003年頃、これからはブログの時代がくるだろうと確信して、いろんな著名人や政治家の方にブログをやってもらった。眞鍋かをりさんのブログをまとめて本にする際に、ネットで無料で見られるものを、何でわざわざ本にして高い金で買わせるんだという議論があったが、僕は全然いけると思っていた。ブログは要するに日記で、その日しか見られない。だがコンテクストとして前後文脈で編んでいくとまた違う価値が出てくる。もう一つ、ネットを見ていない人の流通チャネルに対して乗せるという単純な理由があった。
お陰様で大ヒットしたが、その後ブログはお金になるということで各出版社の草刈場になってしまった。私もブログをやっていて、大手出版社から本を出しませんかというメールが届くようになったので「何でですか」と聞いたら「有名そうなので」という感じで、全然ダメだ。出版業界に入る前は一読者として出版業界というのはすごいと思っていた。でも編集者は企画会議に企画を出せないし、本もあまり読んでいないので、水準が下がってきていると感じる。
一方、ネットでホームページとかを見ていると、一分野に関してはものすごく詳しい人がいる。この人たちに編んでもらった方が早いんじゃないかということでブログを推進したのだが、逆にいうとそういう面白い人をキャスティングしてどういうパッケージにするかというところが、プロのエディターたちが持つプロデューサーとしての能力だと思う。そういうところで高付加価値を付けられるだろう。ただし、そういうプロはだしのユーザーがどんどん出てきて、寝る暇も惜しんで無償でコンテンツを提供している時代なので、そこでお金を取っていくということを徹底的に考えないといけないと思う。
菊池自社の編集者たちを見ていて、質が低下しているとは思わない。時代の変化に合わせざるを得ないという部分があって、昔は凄くて怖い編集者達がいっぱいいたが、今はメディアの有りようが変化している。若い編集者が、それに自分が勉強したことを合わせているんだろうなと思う。ちゃんとしたものを書ける人たちと編集者が、どういう企画を立てて本を出していくかがプロの仕事であって、そのレベルが高ければ読者が反応してくる。そこに私は希望を見出している。
私どもには非常に多くの持ち込み原稿があるが、たとえ大学の先生の原稿であっても、ダメなものがいっぱいある。皆さん書きたいという衝動を持っているんだろうが、プロの目で見ると厳しい。やはり文学作品にしても専門書にしても学術論文にしてもそれなりのものが求められる。
プロの書き手とプロの編集者の共同作業によっていいものが生まれ、読者はそれを見る目を持っていてくれている。そういうところが、とりわけ書籍で仕事をしていくときの拠り所であり、それぞれの出版社のスタイルがあって、若い編集者をどう教育していくかというところに向かっていくと思う。まだまだやりようはあると思っている。我々からすれば、読みもしないで書こうなんて大間違いで、まず一流の著者の本を読んで勉強してほしい。
小林例えばデジカメがほしくて、ネットで検索すると、最初に来るのはカカクコムのユーザーレビューだったりする。デジカメの専門書を検索の1位に上げる方法とかはいろいろあるのに、出版社は出し抜かれている。買う側としても、いろいろな意見を見て訳が分からなくなってしまうので、プロから言い切ってもらったほうがいいなということがある。そういう時の最初のコンタクトポイントが検索エンジンになっていて、そこでの対応で全く後手に回っていることが、非常にもったいないと思う。
松信我々は年間8万冊くらいの本で多い多いといっているが、現在ブログは2700万冊に相当するのだとか、ケータイ小説は100万タイトルにのぼるという。書きたい人が多いということだろうが、垂れ流しで出ても誰も読まない。そこにやはり編集者の価値があるのではないか。新聞でも編集力、一人ひとりの記者の書いた記事がどう編集されるか、そこに新聞の価値を見出していたわけだ。本で言えば、売れる本になるのか、売れない本にしかならないのか、という差になってくるのだろうと思う。
〔書店発のベストセラーに活路〕
星野先ほど小林さんが触れていたコンタクトポイントというのは大事だと思う。多くの人がネットで情報を探している。例えばそこから書店にリンクが貼ってあって、リアルな本がほしければこのお店にありますよという情報を出して初めて、間口を広げてお客様を待っている状態になる、そういった状況があるのかもしれない。
これまでの話で質問があればお受けする。
会場からの質問小林さんにうかがいたいが、出版業界に構造変化が起き、それが成功するとすればいつごろだと思うか。
小林非常に難しい質問だ。僕は構造変化は起きないと思っている。起きるかもしれないが、外圧がないと動かない感じがするので、起きたときはもう悲惨な状態だと思う。出版業界の方は僕のことを「あいつはIT業界に行ってしまった」というのだが、僕のようなコンテンツ屋からすると、それは違う。インターネット上では全部が情報だ。商材は情報で、売り物が違うだけ。だから出版社のライバルはインターネット上の全てのコンテンツだ。出版業界は気が付いていないのかもしれないが、実は新しい出版人はインターネット系の業界にたくさんいる。実は構造変化はもう訪れているとも言える。
星野出版業界とその他の業界というよりも、今までの業界の仕組みに乗ってビジネスをしてきた人たちと、そうじゃない人たちというように分けた方がむしろいいのかもしれない。今までのビジネスを続けてきた人たちにとっての構造変化というのはこれから起ころうとしている感じがする。仕組みを変えるために残された時間は余りないのではないか。本当に変化を起こすとしたら、時間をかけてはいけないと思う。最後に一言ずつお話しをいただきたい。
松信小学館の後に続く仕掛をぜひ作ってほしい。
菊池外山滋比古先生の『思考の整理学』を文庫にしてこつこつ売ってきたのだが、盛岡のさわや書店の若い店員さんが内容に共感し、POPに書いたところ短期間で何百冊と売れた。それを私どもの営業担当者が全国の書店さんに提案してやったら、わずか1年間で30万部売れた。書店の売場はそんな力を持っている。きちっとしたものを作っていれば、何十年たっても通用するものがある。出版の仕事に従事している者にとって今後のヒントになるのではないかと思っている。
小林今日お話したようなことは「日経ビジネス」のオンラインの方でも連載で書いているので、ご覧いただければと思う。